読売新聞「食べものがたり」に「いしり」掲載(その2)
2008.09.06
今年の4月に読売新聞「食べものがたり」に掲載された
「いしり」の記事。今回は掲載内容の後半を紹介します(その2)
タイトル いしり(能登町) イタリアンにも深み
パスタの隠し味にもいしりが。ベン・フラットさんのオリジナルだ
毎朝7時半。町は港の競りで眠りから覚める。サバ、サヨリ、アンコウ、エイ、ハチメ……。
競り人と買い手がせわしくも軽快なやりとりをしている足元に、全長2メートル近い巨大なタコの姿も。
「ミズダコさ。25キロはあるけど、これで1万2000円。足をスライスしてタコシャブにすると
うまいんだよ」と買い付けた仲買人の河村伊佐夫さん(44)が笑う。
宇出津港から海岸線を北東に行くと、もう一つの海の玄関口、小木港に出る。
ここは函館、八戸と並び、スルメイカの水揚げで3大漁港のひとつに数えられる。
波止場で、数隻の中型漁船が舵(かじ)を休めていた。
「子供のころは港ももっと活気がありましたね。水揚げの順番を待つ漁船がズラリと並び、
すごいラッシュになったものです」
そう回想するのは、港で海産物加工会社カネイシを経営する新谷伸一社長(39)。
年間1万リットルのいしりを製造販売している。
「イカの数は減っても、いしりの需要は増加しています。現在は製造量を3倍に増やす準備中です。故郷の食文化が広がっていくのはうれしいですね」と笑顔を見せる。かつては、
地元で消費する程度だったが、徐々に幅広い料理で活用されるようになってきたからだという。
その傾向は地元にもある。
独特の符丁が耳に心地いい港の競り。大量の魚介類があっという間に売買されていく
(能登町の宇出津港で)
宇出津港近くで民宿「ふらっと」を経営するベン・フラットさん(42)は、
12年前に来日したオーストラリア人だ。
母国では、イタリア料理店のシェフだった。シドニーで日本語教師をしていた妻の智香子さんに出会い、帰国した彼女を追ってこの町に。智香子さんの実家が能登町の民宿だったため、
両親に弟子入りして能登の郷土料理を学び、やがて夫婦で現在の民宿をスタートさせた。
見た目は典型的な日本の民宿だが、夕食は本格的なイタリア料理。それも郷土でとれた
山海の幸をふんだんに使ったオリジナルの“能登イタリアン”だ。いしりも大活躍する。
「いしりは、イタリア料理にも独特の深みを与えます。こんなにすごい魚醤はほかの国には
ありません」と滑らかな日本語で話す。
この日のランチコースはポテトのスープから。トロリと優しい味に、いしりのコクが後を引く。
おかわりをしたいと思うほどだ。
そのほか、山菜を使ったパスタ、菜の花とイカのピザなどにも隠し味としていしりが。
アンチョビーにも似ているが、日本人にはこちらの方がなじみやすいはず。オリーブオイルや
チーズをふんだんに使った料理が、北陸生まれの魚醤に出会い、引き立て合っているのは驚きだ。
「能登は人も食べ物も穏やかで優しい。人間としても、料理人としても、この町に来て良かった
と思います」と巨体を揺らしながら、穏やかに話す。この笑顔も、料理にひと味加えているのは
間違いない。
■アクセス
羽田から能登空港まで60分。能登町の中心までは車で20分。
■見どころ
カップルに人気の恋路海岸=写真=までは、宇出津港から車で20分。ロマンチックな
名前に似合わず、海岸に並ぶ巨岩・奇岩が作り出す不思議な景観は一見の価値がある。
■問い合わせ
能登町商工観光課=(電)0768・72・2505。
(2008年4月30日 読売新聞)
(注)上記の記事は読売新聞東京本社 メディア戦略局 知的財産担当より
有限会社カネイシが記事の使用承諾を得て掲載されております。
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